2025.10.02ブログ:Yoshiizumiの部屋
アドボカシー
「アドボカシー」という言葉をご存知でしょうか。
直訳すれば「代弁」「擁護」「支援」。けれど、その本質はもっと深く、もっと人間的な行為です。
介護・医療・福祉の現場において、あるいは社会の中で声を持ちにくい人々と接する仕事において、
このアドボカシーの視点は欠かせません。
でも同時に、それはとても繊細で、間違えば“声を奪う行為”にもなりうる、両刃の刃です。
この文章では、現場で生きる実感を大切にしているあなたと一緒に、アドボカシーという概念を「道具」ではなく「哲学」として、噛みしめてみたいと思います。
声なき声を聴くということ
アドボカシーの核心は、「声を持たない、もしくは届けられない人の代わりに、声を届ける」という姿勢にあります。
たとえば、言葉での表現が難しい高齢者。
あるいは、自分の権利を主張することに慣れていない若者や障害を持つ方。
「本当は嫌だと思っているけれど、言えない」「我慢するのが当たり前だと思っている」
——そういった状況に、じっと耳を澄ませるのがアドボカシーの第一歩です。
けれども、それはただ代わりに喋ればいいという話ではありません。
声を奪わないためには、まず沈黙を尊重する姿勢が必要なのです。
「代弁」ではなく「引き出す」
本来のアドボカシーとは、代わりに叫ぶことではなく、
その人自身が声を出せるようになるための手助けです。
「私が言ってあげるよ」と割って入るのではなく、
「どう言いたい?」と問いかけ、「どうすればあなたの声が届くか」を一緒に考える。
そうしたプロセスにこそ、真のアドボカシーが宿ります。
押しつけではなく、促し。代弁ではなく、共に歩む。
この違いは、簡単なようでいて、実践するとなるととても難しい。
けれどその“難しさ”にこそ、私たちが人としてできる最大の支援があると感じます。
“良かれと思って”が奪う自由
支援や援助の場面でよく起こるのが、「良かれと思ってやったのに、なぜかうまくいかない」という現象。
その多くは、アドボカシーの視点が抜け落ちているからかもしれません。
「この人はきっとこうしたいはず」「これが一番いいに違いない」
そんな“親切な決めつけ”が、相手の意思を無視してしまうのです。
本当に大切なのは、「本人がどうしたいか」。
選択肢を提示し、自分で決める機会を保障することこそが、アドボカシーです。
どんなに正しく見える行動でも、相手の“選ぶ権利”を奪った時点で、それは支援ではなく支配になってしまう。
この線引きを、私たちは常に自分に問い続けなければなりません。
アドボカシーは専門職だけのものじゃない
アドボカシーというと、ソーシャルワーカーや福祉専門職が行う高度な行為だと思われがちですが、決してそうではありません。
家庭の中でも、職場でも、友人関係の中でも、「あれ、この人、本当は言いたいことがあるのでは?」と気づく瞬間があります。
そのときに「大丈夫?」「どう思ってる?」と声をかけられるかどうか。
その積み重ねが、日常の中のアドボカシーです。
誰かの声に耳を傾けること、そっと寄り添うことは、資格も肩書きもいりません。
必要なのは、目をそらさない姿勢と、想像力だけです。
自分の声も忘れないこと
他人の声に耳を澄ませるあまり、自分の声を置き去りにしてしまう人がいます。
特に「支える側」に立ち続ける人ほど、その傾向が強いかもしれません。
でも、自分自身の疲れや迷い、怒りや喜びに鈍感になってしまえば、
他者の声を“本当に”聴くことも難しくなってしまう。
アドボカシーとは「他者のために自分を消す」ことではありません。
自分の声を大切にするからこそ、他人の声にも本気で耳を傾けられるのです。
ケアや支援の現場でも、家庭の中でも、
「自分の声を聴く習慣」を忘れないこと。
それが、誠実なアドボカシーの土台です。

まとめ
アドボカシーとは、“声の橋渡し”です。
誰かの声が届かないとき、誰かが孤立しているとき、
私たちはその声に気づき、拾い、届ける役割を担うことができます。
けれど、それは決して代わりに喋ることではなく、
本人が「自分の言葉で語る力」を取り戻すまで、隣で見守ること。
その繊細で、地味で、地道なプロセスのなかに、アドボカシーの本質があるのだと思います。
聞こえにくい声に、耳を澄ませること。
そして、「これって本当に相手のため?」と問い直すこと。
その連続のなかで、私たちは支援者であり、当事者でもあり、
ただの人として、他者とつながっていくのです。
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