2025.10.06ブログ:Yoshiizumiの部屋
本当の困りごとを見落としてない?
「困っていること、何かありますか?」
そう尋ねると、多くの人は「特にないです」と笑顔で答えます。
でも、しばらくしてふとした瞬間にこぼれる一言や、沈黙の奥に漂う空気。
それらが示しているのは、「本当の困りごと」は、聞かれてもすぐには出てこないという事実です。
人は、自分が困っていることすら自覚していないことがあります。
あるいは、自覚していても「こんなこと言っていいのかな」「理解されないだろうな」と諦めて、口にしないまま抱え込みます。
それは職場でも、家庭でも、支援の現場でも同じです。
「目に見えている問題」が“本丸”とは限らない。
今回は、「本当の困りごと」とは何か、そしてそれをどう見落とさないようにするかを、少し考えてみたいと思います。
表に出てくるのは“仮の困りごと”
「夜眠れない」「最近よく怒ってしまう」「ごはんが美味しく感じない」
こうした訴えは、もちろん“困りごと”の一つです。
けれど、それが“本当に困っていることの核”であるとは限りません。
たとえば、「眠れない」という悩みの背景には、
孤独感、喪失、役割の剥奪感、不安な未来など、感情的な根が潜んでいることがあります。
人は、自分の中の痛みをそのまま言葉にするのが難しい。
だからこそ、“言いやすい症状”や“当たり障りのない愚痴”を表面に出してしまうのです。
聞こえた言葉の奥に、もうひとつの声がある。
それに気づけるかどうかが、対話の質を左右します。
「聞くこと」に隠された難しさ
「傾聴が大事」とよく言われますが、それは決して“黙って聞けばいい”という話ではありません。
本当に必要なのは、相手が言葉にできていない部分を一緒に見つけていく姿勢です。
そのためには、質問の仕方、間の取り方、沈黙への耐性、共感のあり方……すべてが問われます。
そしてなにより、自分の中にある「こうしてあげたい」「こうあるべき」という欲を静かに脇に置くことが求められます。
“聞く”という行為は、実はとても能動的で、繊細な技術なのです。
思い込みが「困りごと」をすり替える
「きっとこの人はこう困ってるに違いない」
「年齢的に、こういう悩みを持ってるはずだ」
こうした思い込みからスタートすると、相手の語る“違和感”に気づけなくなります。
困りごとを勝手に定義し、解決した気になってしまえば、ますます本音は遠ざかってしまう。
しかもこの“すり替え”は悪意なく起こるため、なかなか気づきにくい。
**「相手の声を聞いているつもりが、自分の答えを押しつけていた」**という構造が生まれてしまいます。
常に問い続けたいのは、「私は、この人の“語られていない部分”に耳を澄ませているか?」ということです。
困りごとは、弱さの証ではない
多くの人が、「困っている」と言えない背景には、
「そんなこともできないのかと思われたくない」「迷惑をかけたくない」という“気遣い”や“プライド”があります。
でも、困ることは、恥ずかしいことではありません。
むしろ、それを他者と共有できるかどうかが、関係の質を決める鍵でもあります。
「弱さを出せる」ことは、信頼がある証拠です。
だからこそ、困っていることをポロっと話してくれた瞬間には、
その信頼を丁寧に受け取る覚悟が必要なのです。
「本当の困りごと」が見えたとき、何が変わる?
一見ささいな訴えの裏に、本当の困りごとを見つけたとき、関係性が深まります。
それは、ただ問題を解決したからではありません。
「この人は、自分のことをちゃんと見てくれている」と感じられるからです。
その信頼感は、日常の中でじわじわと効いてきます。
不満が爆発する前に相談してくれるようになったり、
ほんの小さな気づきをシェアしてくれたりする。
「見つけてもらった」経験は、人を孤独から救う力を持っています。
そして、そのつながりが強くなることで、現場も、人間関係も、穏やかに変わっていくのです。
まとめ
「本当の困りごとを見落としてない?」
この問いかけは、他人に向けるだけではなく、
ときには自分自身にも必要なものかもしれません。
誰かの言葉に、空気に、表情に、沈黙に——
その奥にある“まだ言葉になっていない困りごと”を想像できるかどうか。
それが、関係を支える力になります。
聞こえることだけを信じず、見えているものに安心せず、
もう一歩、もう一呼吸だけ、相手に寄り添う勇気を持つ。
その先にきっと、
「助けてもらえた」と感じる誰かと、
「本当に役に立てた」と実感できるあなたがいるはずです。
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